サユちゃんたちと別れて、階段をおりていく間に夏目に腕を掴まれる。
やめろよ。傍目にはいちゃついてる男同士のカップルだぞ。
俺はノーマルだ。女の子が好きなんだ。
仮に男がよくても夏目は嫌だ。
「さあ、行こうぜ中津川。カラオケだってよ、カラオケ」
「俺、陸上部に見学に行くって言ってんだろ」
「逃げる口実だったんじゃねーの?」
「それもあるけど、本気で入部する気はあるから。そもそもお前だってカラオケ行きたいわけじゃないんだろ?
逃げちゃえばいいじゃん」
「いや、あの明菜って女の眼力が怖すぎて。敵に回したくねぇ」
下敷きをぶつけられた鼻はまだ赤いようだしな。相当痛かったのか。
不憫だから、優しい言葉をかけてやろう。
「じゃあ、先に行ってろよ。俺はちょっと顧問の話聞いてから帰る」
「なんだよ、真面目っ子め。嫌われるぞ」
「お前、いきなり喧嘩売るのやめろ」
ムカつく男だー。
優しくなんかするんじゃなかったぜ。
「じゃあケータイ。持ってんだろ?」
「え? ああ」
廊下の片隅でアドレス交換。
高校に入ってスマホに替えてもらって初めてのアドレス交換が、よりによってこいつとなのかー!
「待ってるからな。ちゃんと来いよ! 来なかったら泣くぞ」
「はいはい」
お前は俺の彼女かよ。
セリフだけ聞いてると気持ち悪くて背筋がゾクゾクするぜ。
嵐のような男が退散して、自然と安堵の溜息が漏れ出る。
疲れた。
まだ始まったばかりだというのに、なんでこんなに疲れるんだろう、高校生活。