そんな空気を持っている人間なんて、今の若いもんにはいないわって思っていたけど、一人だけいた。
高校の同級生の、中津川智(なかつがわ さとる)。
初めて見た時から、何故か妙に惹きつけられるなとは思っていた。その理由に私はしばらくして気づいた。
彼が持つ雰囲気はこの商店街の大人たちが持つ温かさに近いかったのだ。
……ただ、そいつには私よりもっとずっと大切な人がいた。
後から入り込む隙なんて無いほどに、深いところで繋がった人が。
「お、うーまそう!」
近くに人の気配がしたかと思うと、サクっというコロッケをかじる音が耳元でした。
振り向くと、最近やたらと私にまとわりつくうるさい男が、私の大事なコロッケをかじっている。
「ちょっと、アンタ!」
「あちち、うめーこれ! なにこれスッゲ美味しい」
当たり前だ、おじさんのコロッケよ。
って、そうじゃない。
今問題なのはこのあたしの大事なコロッケがよりにもよってこんな男に食べられたことだ。
「泥棒!」
「ひでぇなぁ。ずっと声かけてたのに気づかなかったのは新見の方じゃん」
「聞こえない声で呼ぶからでしょ」
「聞こえるように言ったって」
制服のズボンのポケットに手を突っ込みながら、クスクスと笑うその男の名は……なんだっけ。なんとか颯(はやて)、確か隣のクラス。
中津川くんが『颯』って呼ぶから、下の名前しか覚えていない。