悩みとは縁遠い顔で、母親が私に向かって両手を合わせた。
「明菜、悪いんだけどひき肉買ってきてくれない? 買い忘れちゃったの」
「何作る気だったの?」
「ハンバーグ」
「……あ、そう」
ハンバーグをつくろうと思ってひき肉を忘れることができるのは、ある意味すごいな。
それでも、それがウチの母という人だ。
どうせ頭は次に作る折り紙のことで一杯だったのだろう。
「いいよ。着替えてから買ってくる。お金準備しておいて」
そう言って、家の中に入る。リビングには今日買ったばかりと思われる、見たこともないような折り紙が机の上に散らばっていた。トレーシングペーパーに色がついたっていうくらいの薄い紙だ。何の気無く持ち上げて窓の方を向けると、薄いからか光が透けて見えた。
私はそれを元に戻して、自分の部屋に行った。適当なご近所用の私服に着替え再び玄関に戻ると母さんは財布を持っていた。
「はい。帰りにおやつ買ってきてもいいわよ。お駄賃」
片目をつぶっておどけて見せて、再び和晃の母親と談笑する母さん。
いいように使われているなとは思うけど、それを責める気にはならない。
私は、何かに熱中している人が好きだ。自分にはない情熱を持っている人がとても眩しくて、いつしか気持ちを持っていかれる。
それは、一番身近なところでは母親が当てはまる。