母親は手作業の好きな人だ。
特に得意なのは折り紙で、折り紙協会認定講師とかいう資格まで持っている。
お正月と言えば鶴、三月はお雛様、五月は兜など、多彩な色の和紙をつかったそれは、たかが折り紙とは言えないほど見栄えが良い。正月に玄関に飾っていた金と赤の二色で出来た鶴は、和晃のお母さんの嘆息をかったものだ。
学校から帰ると、玄関は井戸端会議の会場になっていた。
ちょっと話すだけのつもりだったのだろうけど、どうせいつも長くなるんだから、最初からリビングに通せばいいと思う。
今日のお相手も三軒先に住む和晃の母親だ。
「いいわよねぇ。明菜ちゃんのママ、手先が器用で」
「そうですかね」
「ああこれもいいわぁ」
今はもう夏へと差し掛かる頃で、紙で折られた偽物の朝顔が我が物顔で玄関先を彩っている。
ちなみに私はというと、手先の器用さは似たのであろうと思う。美術や家庭科などの成績はいつも上々だ。けれどもそれが好きかどうかかまた別物で、母の作るこんな折り紙たちを見ても感動の度合いは和晃のお母さんに負けていると思う。
「和晃、部活どうですか?」
「ねぇ、急に帰りが遅くなってびっくりよ。どうして急に部活やる気になったのか教えてくれないのよ? 明菜ちゃん何か知らない?」
「さあ」
知っているけど、聞いたらおばさんは切なくなると思うので言わない。
彼女である珠子が、マンガ読んでて「バスケって格好いいねぇ」って言ったから始めました、なんて志望理由としては情けなさすぎるだろう。
それでも、珠子のためにどこまでもやれる和晃を、私はそんなに嫌いじゃない。
逆に、今の珠子は少し腑抜けているなと思う。
幼馴染の恭一さんを一心不乱に追いかけていた時の珠子を、私は気に入ってたから。
和晃はオススメだよ、と背中を押したのは私だけれど決めたのは珠子だ。
だったら、本気で一番に好きになってやりなよって思う。