「さ、サトルくんのえっち」

「エロくはないじゃん。可愛いからキスしたくなったんだよ」

「だって。だってぇ」

「嫌だったならごめん」


サユが可哀想になって謝ると、彼女はいじけたような顔をしつつも首を大きく振った。


「……嫌なわけじゃないもん」


可愛い。
悩殺されそう。

しっかり者でなんでも出来て、なのにこんなに純情で可愛いサユ。
ずっと小さい頃から焦がれてた彼女に、ようやく手が届く。


「じゃあ、もう一回してもいい?」

「……ダメ」


言葉とは裏腹に、声や態度に抵抗の響きは感じない。

俺は彼女を壁に寄せて、ゆっくり唇を近づける。戸惑いつつもサユの瞼が閉じられていくのを見て、俺も安心して目を閉じる……と思ったら突然廊下からガタンという大きな音がした。


「きゃぁぁ」

「誰だ?」


ビビるサユ、怒る俺。
なんでこんないいタイミングで邪魔すんだよ!

そこにそろそろと入ってきたのは、顧問でありサユの担任である木下。


「あー、悪い悪い。そろそろ終わったかと思って見に来たんだけど、邪魔だったか」

「邪魔ですよ、思いっきり」

「やー、サトルくん何言ってるの! そんなんじゃないです。今から職員室に寄って帰るところでした」


サユちゃんは真っ赤な顔のまま、俺と木下を急き立てる。
おのれ木下。いつか仕返ししないと気がすまない。


「センセ、今度百メートル勝負しようぜ」

「なんだよ、サトル。俺に敵うと思っているのか!」


相変わらず強気だな、体育教師。
しかし俺は負けん。
なんてったって俺には、こんなに可愛い彼女の愛情パワーがついている。


「絶対負けねぇ。サユも見ててよ」

「うん。今度ね」

「木下より格好いいとこ見せてやる!」


『恋人』に名の変わった俺達の関係を、これからもずっと続けていけるように。
俺は挑戦を惜しまない。



【fin.】