「そもそもなんで木下がここにいたわけ?」

「美術室の戸締まりの話してたの。美術部顧問の矢田先生は今妊婦さんなのね? 美術室の戸締まりは顧問がしなきゃいけないんだけど、私が遅くまで残っていると先生も付き合わなきゃならないでしょ? でも先生、切迫早産の診断が出てて、できるだけ安静にしてなきゃいけないっていうから。木下先生担任だし、陸上部終わるまで必ず残っているから、先生に頼めないかなぁって話をしてて」

「なんだそうか」


でも、こんなとこでふたりきりで話さなくてもいいのに。
なんて、やっぱり嫉妬グセの抜けない俺。


「あの、……ちょっといいですか」


俺達の会話を遮るように、新見がボソリとつぶやく。


「さすがに邪魔してるの嫌なので私も帰りたいんだけど、その前に葉山先輩に話があるの」

「私に? なに?」

「謝りに来たんです。昨日、私が中津川くんを突き飛ばしたりしたから、葉山先輩まで怪我したって聞きました。すみませんでした」


角度は綺麗に四十五度。頭を下げた新見に、サユは慌てて顔をあげさせる。


「い、いいよう。新見さんのせいじゃないし。……それに、お陰でいいことあったから、むしろお礼を言わなきゃいけないくらい」

「……ふーん。だから中津川くんは今日は先輩のこと呼び捨てにしてるんですか?」


謙虚に告げるサユに、新見は冷たい視線と返事を返す。