「中村さん、なにしてるの?」
鋭い声を出したのは新見で、中村は驚いたように体を大きく揺らし、それが扉にぶつかって大きな音が立った。
「なんだなんだ?」
美術室から出てきたのは、木下だ。
その後から、ひょっこりと顔を出すのはサユで、中村はそれを見て苦々しい顔をする。
「あ、あなたあの時の」
サユに指差されて、中村は反射的に逃げようとする。俺は嫌な予感がして、中村の腕を掴んでそれを遮った。
「お前、なにしてたんだ?」
その瞬間中村の手から携帯がすっぱ抜けた。
カラカラと音を立てながら転がったそれを新見が拾い上げ、蔑みの眼差しで中村を見やった。
「……へぇ。今度はこんな写真撮って噂流そうって?」
「ちょ、返してよ。泥棒!」
中村は俺の手から逃れようと体を振る。だけど所詮は女の力だ、簡単に振り払われたりはしない。
「新見、どんな写真写ってる?」
「葉山先輩と木下先生の密会現場、ってタイトルでもつければそれなりに悪い噂は作れるレベルの写真」
新見がかざした携帯をのぞき込んで苛ついた。
確かに、キャンバスを覗きこむためかかかんでいる木下がサユと向かいあって話していて、悪い見方をすればキスする手前のようにも見える。
何もないって分かっていても苛つくレベル。