「おはよう、サトルくん」


ギャンギャン言い合いながら去っていく二人を見つめていると、後ろから声がかけられる。
昇降口にはキョトンとした顔で立っているサユがいた。


「あ、サユ。おはよう」


呼びかけると上目遣いの彼女が俺をじっと見る。


「……呼び捨て」

「うん。もう呼び捨てにするって決めたんだ。いいだろ? 別に」

「でも学校……」

「だから余計。悪い噂は、良い噂で覆せばいいってそう思わない?」


俺は笑って、彼女の手を掴む。沸騰したみたいに一気に真っ赤になって、サユはアワアワと周りを見る。
包帯をした手を自分の両手で包んで、俺はそこに一つの誓いを落とす。


「俺は俺のやり方でサユを守るよ。俺はまだガキだから、間違うこともあるかも知れないけど。サユが好きなのはずっと変わらないから」

「さ、サトルくん。だからここ学校っ……」


ここは昇降口だから、登校してくる生徒が通りすがりに冷やかして行く。

サユは真っ赤になっているけれど、俺はもう吹っ切れた。どんなに迷ったって困ったって消せない気持ちがあるなら、それはこの先もずっと続いていくのだろう。

例え父さん達のように間違っても、本物ならまた繋がるんだ。

ガキの頃から、サユだけが俺の中で特別だった。彼女もまたそうだったというなら、俺達はきっといつまでも離れたりしない。