サユはキョトンとして、俺を見上げた。
「小さい、マル」
「そう。一つのマルにしか入っちゃいけないなんて決まってない。俺だって幾つものマルの中に入ってる。小さなマルから大きなマルまで。どれも大事にしていけばそれでいいじゃないか」
マルの話は、おじさんとサユの秘密の暗号のようだ。
おそらく、俺の知らない何かしらのやりとりがあったのだろう。
でも、サユはその話を聞いて、ひどく安心したように笑った。
「……そうか。そうだね」
「まあ、本気で奪う時は俺も簡単には渡さないけどな」
はは、と物騒なことを言って笑われても。
おじさんはどうしたいんだ。俺を牽制してるのか応援してるのかどっちだ。
伺うような眼差しで見ると、おじさんはくすりと笑った。
「やっぱりサトルくんは素直で面白いな」
イマイチ褒められた気がしない。
わかんねーよ、おじさん。
「さ、ついたぞ」
停まるときに、自然に体が前のめる。
車だとあっという間の距離だな。早く大人になって免許を取りたいもんだ。
「ありがとうございました」
「またな」
「サトルくん、お休み」
「うん。お休み」
走りだしたワンボックスカーはあっという間に小さくなる。
迷って見つけた答えは、胸の中にあって俺の道筋を照らす。
俺は彼女から離れない。
そして自分のできる限りで、彼女を笑わせるんだ。