「や、ちょ。待って、ここじゃ」

「そうだ。ごめん」


ここは彼女の家の前だった。
まして、この時間に出てきたってことは親も心配して様子を伺っているわけで。

慌てて体を離すと、サユの携帯が鳴る。


「はい、お父さん? ……うん」


やっぱりおじさんー!!
見てたのか。このタイミング。


「うん。話は、……だいたい終わった、……よね?」


尋ねるように見上げられて、俺は頷くしかない。
サユは電話を切ると無邪気に笑った。


「お父さん、車でサトルくんを送ってくれるって。もう遅いから乗って行って」

「は、はは。ありがとう」


嬉しいような怖いような。
俺はエントランスから出てくるおじさんの影を見ながら、引きつり笑いになる自分を止められなかった。








一緒に送っていく、と言ったサユを制したのはおじさんだった。


「サユは中に入っていなさい。大丈夫、サトルくんの家は昔行ったことがあるんだ」

「そういう心配じゃないもん。お父さん、サトルくんに変なこと言いそう」


それには俺もかなり同意する。
釘刺されそうで怖い。まして、彼女を抱きしめてしまったことも見られていただろうし。


「お、俺、自力で帰れますよ」

「いいよ。俺もドライブ行きたいからついで」

「じゃあ私もドライブしたい。それならいい? お父さん」

「……仕方ないな。じゃあふたりとも乗りなさい」


そんなわけで、おじさんのワンボックスカーの後部座席にふたりで乗り込んだ。