「新見とはなんでもないって」
「知ってる。でも、気になるんだもん。私、嫌な顔してるの見せたくない」
「俺は見たいよ」
俯いた彼女の顔を上にあげる。
彼女は顔を隠そうとするので、手を握ってそれを邪魔する。
「見せて。どんなサユでもいい。嫌いなんかならない。それに俺だって、ヤキモチなら沢山焼いてる。木下とか、おじさんとか、夏目とか、他にも色々」
そうだよ。俺のほうがよっぽどヤキモキして情けない姿ばっかり見せて。
「サユが嫌じゃないんなら見せつけたいよ。他の奴らに。誰かに取られそうだって心配なのは俺の方だ」
不安が溢れだしたら止まらない。
好きで、好きで、好きすぎるとこんなふうになるのかな。
信じてるとか信じてないじゃなくて。手に入れたいのに届かなくてもどかしい。
「誰もとったりしないよ……というか、告白してくる人は私の表面しか見てないもん。ホントの意味でもててるわけじゃない」
「そう思ってるのサユだけだよ」
「ていうか、なんで今日そんなに呼び捨てにするの」
「したいから」
「やっ、もう。恥ずかしいし」
「でも呼びたい」
彼女の背中に手を回して、軽く抱きしめる。
俺だって恥ずかしいし、呼び捨てにするのはドキドキする。
それでも、このドキドキが嬉しいから俺は何度でも呼び続ける。
「サユ、サユ、サユ、サユ」
「やーもう止めて」
「そのうち呼ばれ慣れるよ」
「無理。慣れないよ」
「大丈夫」
一呼吸置いて、彼女のサラサラの髪を撫でる。
「ずっと一緒にいるから。ちゃんと慣れる」
「ずっと?」
「うん」
「だって俺、こんなガキの頃からサユが好きなんだ。サユを嫌いになることなんか考えられない」
「……サトルくん」
腕の中の彼女から、力が抜けていくのが分かった。
支えるようにしつつ、顔をのぞき込むと、涙目のサユが俺を見上げる。
キスしたい。
そう思って顔を近づけていくと、彼女は一瞬で体を固くして俺を軽く押した。