「私ね、サトルくんが走ってるところ見るの好きだよ。まっすぐ前を見ている時とか格好いい」
可愛いことを言ってくれるので、俺は顔が見たくて彼女を少し離した。
「その割にサユ、部活終わるの待っててくれないじゃん。俺、本当は一緒に帰りたいのに」
「え、だって」
彼女は、恥ずかしそうに両手で顔を隠してイヤイヤと首を振る。
「私、絶対変な顔してるもん。ニヤニヤしてるから、恥ずかしくて見せられない。……それに、しばらくは大人しくしてないと噂が収まらないかなって思って」
「やっぱり、噂のこと気にしてるんだ」
心配して顔をのぞき込むと、彼女は口元を抑えて黙りこむ。
「言ってよ、サユ。辛いなら俺、何とかするから。助けるから」
「ち、違うの」
消え入りそうなか細い声が、ポソリと意外な言葉を漏らす。
「こんなこと考えてるって知られたら、サトルくんに呆れられちゃう」
「呆れないよ。何言ったって馬鹿になんかしないから。教えてよ」
「……に、新見さんとの噂を、聞きたくないの。だって、新見さんカッコイイんだもん。サトルくんとお似合いだなって思ってしまうから。すごく、……嫌な気持ちになるんだもん」
上目遣いに俺を見あげた彼女の瞳は潤んでいて、はき出された言葉は熱を持ったまま俺の胸に落ちる。
「だから、とにかく噂をこれ以上立てることはしたくないなって思ってて」
それで、目立つようなことはしなかったってことか?