「はい、どうぞ」


コツンという小さな音に顔をあげると、湯気をあげたお茶が置かれている。


「……ごちそうさま」

「母さんのご飯は美味しいでしょ?」

「うん」

「腹ごしらえが終わったなら、話してご覧なさい」


母さんの淡々とした声に、逆らう気力が沸かなかった。


「まあ、色々あって」

「そうね。何もなきゃ腹を蹴られたりはしないわよ」

「それはいいんだ。大したことないし。俺が悪い部分もあったし。……でも」


お茶を一口すする。温かいものってなんでこういう気分の時は染みるように感じるんだろう。


「サユちゃんに、怪我をさせた」

「サユちゃんって。葉山さんとこのサユちゃん?」

「俺が転ぶのに巻き込んで。……手首を捻挫したんだ。サユちゃん、……絵を描くのに」


声に出したら一気に脱力した。
湯のみを握ったまま、動かなくなった俺に父さんと母さんからは哀れみの眼差しを感じる。

しばらくの沈黙の後、父さんが口を開いた。


「捻挫なら大丈夫だよ。時間が経てばちゃんと治る」

「でも、県展に出すって頑張ってたんだ。しばらく描けなくなったら間に合わないかもしれない。俺のせいで」

「サユちゃんがそう言って責めたの?」

「違う」

「だったら自分を責めるのは辞めるのね。勝手に罪悪感に駆られたって迷惑よ」


母さんがサラリと言うと、父さんが困ったように頭をかいた。
不思議に思って見つめていると、母さんのほうが笑って話しだす。