「俺は、君のことは結構気に入ってるよ。でもね、サユが大事ならちゃんと守れ。怪我させるなんて間が抜けてる」
「お父さん、酷いこと言わないで」
「サユは中に入っていなさい」
「イヤ。サトルくんに変なこと言わないで」
「サユちゃん。いいよ」
俺を巡って、おじさんとイザコザを起こされるのも気が引ける。
サユちゃんはおじさんが大好きなはずなんだから。
「良くないの。お父さん、何も知らないのに結果だけ見て変なこと言うの止めて」
「サユちゃん! いいってば」
俺が声を荒らげて言うと、彼女は体をビクリと震わせた。
「サトルくん?」
「ホントに。中入って休んで。俺は大丈夫だから」
「でも」
「頼むから!」
頑なな俺の態度に、サユちゃんは困ったような顔をする。
「じゃ、じゃあ。……また、ね?」
「うん」
「お父さんは……」
「もうちょっと外にいるよ。先に入りなさい」
「……うん」
サユちゃんは何度も振り返りながらエントランスに入っていく。
その心配そうな視線を見てると、なぜだかこっちが打ちひしがれていく。
「……俺が怪我させたのは間違いないんです。すみません。県展の絵を仕上げてるって言ってたのに」
「それはまあいいよ。怪我はサユの言うとおりわざとではないんだろう?」
「はい。……でも」
「俺が気になっているのはね。君がすごく参った顔をしているからだ」
おじさんの視線が柔らかくなる。
うっかり気が緩んで力が抜けてきそうだ。
俺は拳を握りしめて、吐き出すように一言告げた。