「一応、怪我したことはご両親に連絡しておくからな」
養護教諭から連絡をうけた木下は、その後各方面への連絡に追われていた。
バタバタしているうちに部活はもう終盤に向かってしまっている。腹が蹴られたということもあり、俺はそのまま帰るように言われた。
保健室からでて、俺達は二人気まずげに顔を合わせる。
「サユ……ちゃん。帰る? 送っていくよ」
「うん。……あの。ちょっと美術室に寄ってもいい?」
「うん」
階段をのぼる途中で、「お腹、痛くない?」と何度も心配そうに見上げられる。蹴られてすぐは痛かったが、今はもうなんともない。部活の筋トレに感謝だ。
「俺は大丈夫。それより……」
その先を言葉にできずに、俺の目は彼女の右手で止まる。サユちゃんはそれを隠すようにして階段を駆け上がった。
到着した三階の美術室には人は誰もおらず、サユちゃんは慣れた様子で教室の明かりをつけようと右手をあげ、白い包帯を見て思い直したように左手で電気をつけた。
窓際の一角には大きなキャンパスが置いてあり、上からシーツのような布がかけられていた。
サユちゃんはそれを左手で取り払う。するともう一つ窓枠が出てきた。いや、実際は絵だけど。しかも途中までしか塗られていないけど。
この美術室から見える黄昏の校庭。朱がフェンスやコートを染めているそのものがキャンバスに描かれている。