「サトルくん」

「俺にだけは見せてよ。……辛いとか。苦しいとか。それともそれも言えないくらい俺は頼りないの?」


俺の言葉にサユちゃんの瞳が揺らぐ。食い入るように見詰められて、言い過ぎたかと喉に言葉が詰まった。

その瞬間だ。
後ろから首根っこをひっつかまれた。


「うお」

「馬鹿じゃないの、アンタは!」


勢いよく引っ張られ、呼吸が苦しくなる。
なんとか振り向くとそこにいたのは鬼のような形相をした新見で、彼女は不機嫌さをもろ出しにして俺の肩をどつく。


「に、新見?」

「頼りないとか年下だからなんて関係ないでしょ。葉山先輩は、アンタを守ろうとしてるんじゃない。アンタのことが好きだから!」

「新見さん」


サユちゃんが新見の方を見る。気遣うような視線を向けられて、新見はますます苛立ったように俺を叩いた。


「私だってそうよ。何にも気づいていないアンタにわざわざ教えてまで守ってもらおうなんて思わないわ。それよりっ。アンタ、中村さんになんか言ったでしょう」

「中村?」


え?
なんか言ったっけ。


「私がアンタを好きじゃないって? どの口がそういうこと言うわけ。私言ったよね。ちゃんと告ったよね」

「お、落ち着け新見。それは話がこじれないようにだな」


何度と無く俺を叩く腕の隙間から見えるのは、泣きそうな新見の顔。
ギクリなのかドキリなのか曖昧な鼓動が激しくなってくる。