「ここでいいよ。サトルくん」
「いいよ。家まで送ってく。俺、定期だし」
「大丈夫。まだそんなに暗くないから」
「そうだよ! 俺だっているんだからな!」
サイジは、さっきからかわれたことを根に持っているのか珍しく反抗的だ。俺とサユちゃんの間に立って、彼女を守るように俺に胸を反らせてくる。
「分かった分かった。じゃあ」
「うん。またね」
手を振って踵を返すと、彼女の髪がふわりと揺れる。
無意識に、右手が呼び止めようと動いた。
走って追いかけて、もう少し一緒にいたいって言いたい。
でも、サイジがいるから。
その一点が何とか俺の衝動を押しとどめる。
「気をつけてな……サユ!」
少し強気に名前を呼び捨てにしてみると、彼女の動きがピタリと止まる。
振り向いたその顔は真っ赤で、途方に暮れたような表情。
照れてる?
それともそれは嫌がってるのか?
表情からは気持ちが読めず、俺は素知らぬふりをして手を振った。
彼女は口元を手で隠すようにしながら、呼応するようにもう一方の手を振り返した。
嫌がられてはいない……かな?
俺はホッとしつつ、やっぱり物足りなさも感じている。
改札を抜けて小さくなって行く彼女の背中を、消えるまでずっと眺めていた。