「えっと、どうぞ?」

「お、お邪魔します」


緊張した面持ちで入ってきたサユちゃんは玄関を見てうわぁと歓声をあげる。

木の風合いを大事にしていて、壁もクリーム色の落ち着いた雰囲気の家だ。
玄関の近くにある棚には、木製のキノコや子鹿の置物なんかが置いてある。


「かわいいね。サトルくんの家。このキノコの置物とかすごく可愛い」

「あー、それは、母さんの趣味」


普段さっぱりしていて男っぽい母親だが、趣味は読書。しかもファンタジー小説。
そのキノコも可愛く見えるが、本人は昔「毒キノコって重要アイテムよねぇ」とか言いながらそれを買っていたので、置物として可愛いというよりは、家の中に毒キノコを仕掛ける心境で買ったものかと思われる。

しかし、夢見るように辺りを見回すサユちゃんに真実を教える必要もないだろう。


「つか、ねーちゃん、入ろうよ。お邪魔します。おーい、イッサ。ルイー!」


先に、サイジが遠慮もなく家の中を走って行くと、反対方向からルイが走ってくる。するりとサイジをすり抜けて、サユちゃんに飛びついた。


「わーい! サユねーちゃん!」


更には俺を突き飛ばして、サユちゃんの腕をグイグイ引っ張っていく。


「こっち座って、サユねーちゃん」

「ありがとー。ルイちゃん」

「お菓子食べる? お兄ちゃん、冷蔵庫からケーキ持ってきてよう」

「お前も手伝えよ!」


キレそうになりながら言うと、サユちゃんが座りかけた腰を上げた。