「勘ぐってるわけじゃないよぉ。お似合いだよって言ってるんだよ。いいじゃない、付き合っちゃえば」
中村の笑顔は崩れない。笑っているのに空気が悪いってどんなんだよ。
「余計なこと言いふらすなって言ってるんだよ。俺、別に彼女出来たし。新見だって俺のことなんか相手にしてないんだから」
「えー? そうなの。誰?」
噂の沈静化を測りたくてそう言ってみたが、中村がますます楽しそうな顔をしたのを見ると、余計なことを教えてしまった気がしないでもない。
「ねー、誰、誰」
「お前には教えねぇ」
うるさい中村をシカトしていると、和晃がそこに加わってくる。
「マジ? サトルあの先輩とうまく行ったの?」
「い、一応」
「なんだよ、折角明菜に合いそうな男が居たって思ったのになぁ」
「ねぇ。和晃くん、あの先輩って誰?」
中村は、いつまでたっても返答しない俺から、和晃へと矛先を替えた。
止めろよ。余計なこと言うなよ?
そう目で訴えてみたが、和晃には全く届いていないらしい。
「ほら、二年の葉山先輩。サトルの憧れの君、だよな?」
「ああ、まあな」
ああもう。はっきり名前まで教えるなよ。
机の下で和晃の足をけるけど、和晃に堪えた様子はない。
「えー。葉山先輩? 男ってホントぶりっ子が好きだよね。中津川くん趣味悪いねー」
サユちゃんが一部の女子に不人気だというのは本当の話らしい。
中村は侮蔑の意思を隠そうともせずにそう言ったかと思うと、急にニヤリと笑った。
「そうかぁ、葉山先輩とね。あー新見さん、可哀想ね」
「だから。別に新見は俺のことなんてなんとも思ってねぇよ。お前らうるさい。余計なこと言いふらすなよ?」
「しないよ。先輩と仲良くね」
「あ、ああ」
嫌な空気は感じつつも、中村程度の女に何かができるとは思えない。
俺は深く考えるのを止め、黒板の方に視線をずらした。