教室に入るのに緊張する、なんて情けないけど。行こうとしたところで胸が詰まって苦しくなる。

いやいや、辛いのは俺じゃねぇだろ?
分かっていて、足がすくむのはかなりの根性なしだ。

その時、ポケットにある携帯から振動を感じた。取り出してみて、そこに書かれた名前に思わず微笑む。


「サユちゃんだ」


昨日交換したばかりのアドレス。
そこには【おはよう】と可愛い絵文字付きで書いてあった。
たった一言なのに、どうしてこんなに胸がほっとするんだろう。
俺も【おはよう】とだけ返して、顔をあげる。サユちゃんのお陰で緊張が解けたな。

勢いづいて教室に入ろうとすると、教室から出てきた女子と激突する。


「うおっ、痛ぇ」

「痛いのはこっちよ。……って、あら中津川くん、おはよう。今日は遅いのね」

「あ。新見、おはよう」


新見は今までと変わらず飄々とした態度で俺の脇をすり抜けて行った。

さすが男前な女。振られたからって気まずさとかはないんだな?
自分がオドオドしていたことが情けなく感じてくる。

少し気が晴れて教室に入ると、隣の席の中村がクスクス笑いで出迎える。
一気に気分は曇天模様に逆戻りだ。


「朝から仲いいのね」


全然微笑ましくない口調で言われてもな。
机の上に鞄を放り投げて、俺はムッとしたまま荒々しく席についた。


「中村、変に勘ぐるの止めろよな」