翌朝、浮かれ気分で登校する俺の背中を叩いたのは颯だ。


「サトル、昨日どうしたんだよ。戻ってきた木下にはほっとけって言われたけどさ」

「ああ颯、おはよう。いや実はいろいろあって」

「へぇ。ご苦労さん」


どう説明したもんかと悩みながら、でもにやけた顔は抑えることが出来ずにそう告げると、颯はあっさり納得しようとする。
いや、ここは突っ込んでもらってもいいんですけど。つかむしろ突っ込んで欲しいんですけど。
見えないのか颯。俺からにじみ出る幸せオーラが。


「もっとちゃんと聞けよ。実はな、サユちゃんが俺の彼女になった」

「ああ、心のな。可哀想に、幻覚でもみたのか」

「違う! ホントに」


ムキになって言い返すと颯はくすりと笑う。


「冗談だよ。なんだ、先輩に会いに行ってたのか?」

「最初は違ったんだけど、色々あってそうなった」

「じゃあそれで噂収まるかね。ほら、お前とあの学級委員の」

「あ」


浮かれていてすっかり忘れていた。
噂上では、俺と新見が付き合ってることになってるんだっけ。しかも、新見はホントに俺のことが好きで。


「……そうか」


だとしたら、新見にとってはかなりいたたまれない状況だ。
俺は急に焦りだし、落ち着かないのでやたらに頭をかいてしまう。


「どうした? サトル」

「いや、ちょっと」


新見にどういう態度をとればいいのか分からない。それに、早目に噂を収束させてやらないと、延々と彼女を傷つけることになる。

事情を知らない颯にそこまで説明するのが気が引けて、俺は曖昧に誤魔化しながら校門をくぐった。