「……恥ずかしいからダメ」
「サユ」
「もう! ダメってば」
「だって、木下もそう呼んでるのに」
「木下先生は先生だもん」
そうだよ。
おじさんも親だから呼び捨てにするんだ。
知ってるけど、心には刺みたいに引っかかっている。
どうやら俺は独占欲が強いらしい。
気持ちが届いただけで嬉しいはずなのに、もっと他の男よりも近づきたいって思ってしまう。
「とりあえず、メルアドとか交換していい?」
「うん」
サユちゃんの赤いスマホが差し出され、赤外線でデータ交換をする。
俺のメモリーの中に、ようやく入ったサユちゃんの名前。
特別にしたくて、一人だけ着信音を替えた。
「帰ろうか」
「うん」
手を差し出すと、サユちゃんがおずおずと手を伸ばした。
手のひらに収まる、小さな手。
この幸せを離したくなくて、俺はギュッとその手を握りしめた。