「新見」

「何よ、うるさいわね!」


キツイ口調と凄みの聞いた睨み。でもその瞳は潤んでいて奥には表面から見えない以上に優しさが詰まっている。


「実はちょっと揺れた。お前たまに可愛いから」


新見の顔はみるみるうちに真っ赤になり、それに見とれているうちに、上履きが飛んできて頭に命中する。


「いらないこと言ってんじゃないわよ、馬鹿!」


だから。上履きはきたねーからやめろ。


「サトルくん、大丈夫?」

「だ、大丈夫」


心配するサユちゃんに返事をして、上履きを彼女の足元に投げ返す。


「いらなくねぇよ。本当のことだ。お前みたいな奴に惚れられるって純粋に嬉しい。……ごめん。ありがとうな」

「……馬鹿」


最後の声は力なく、やっぱり余計なことだったかと思う。


「ほら、行くぞ新見」


夏目が彼女を引っ張っていったのか、そのまま二人の姿は消えていく。

頼んだぞ、夏目。
祈るような気持ちで誰もいなくなった教室の扉の前を見つめた。