「今は、私、……誰とも。……っ」
声の潤みに気づいて顔をあげてみると、彼女の目の淵にはこんもりと綺麗な滴が浮かんでいる。
「付き合ったりしない……つもりなのに、……ダメだぁ」
「サユちゃん?」
「皆でマルがいいはずなのに。さ、サトルくんが新見さんと付き合っちゃうって思ったら苦しい」
たどたどしく語られる言葉に、胸がくすぐられる。
でも今問いかけたら、きっとサユちゃんは気持ちを吐き出せずに黙ってしまう。
俺はただ見つめることで彼女の言動を導いた。
「わ、私にとって、サトルくんは特別なの。ずっと前から」
俺だってそうだ。
ずっと特別だった。心の奥に、消えること無くサユちゃんがいた。
「みんな好きなの。みんなで仲良くしていたいの。だけど」
ぽろり、と涙が頬を伝っていく。
和奏先輩はサユちゃんはあまり泣かないというけれど、俺はやっぱり泣き顔ばかり見ているような気がする。
「サトルくんが他の人の特別になったらイヤ」
頼りなげな足取りで数歩俺に近づいたサユちゃんはシャツの裾をギュッと握る。
一緒に心臓まで掴まれたような気持ちになった。
熱い顔のまま残る二人を見れば、夏目は呆然と口を空けていて、新見は泣きそうな顔をして俺を見てる。
「新見」
「いいわよ、余計なことは言わなくて。分かってる。……分かってた」
自嘲気味な声がいたたまれなく感じて、俺は余計なことを口走る。