やがて、視界の端で人影が動いた。
今まで黙っていたサユちゃんが、ぎこちなく、にへと笑う。


「そ、そっかぁ。二人が付き合ってるって噂、あながち間違いでも無かったんだね。……お似合いかも知れない、二人」


言われたくないことを言われて、俺は唇を噛みしめる。

サユちゃんは皆でマルがいい。皆で仲良くすることを選ぶ。
だから、俺の告白もきっと迷惑で、眼の前で俺達が喧嘩しているのも嫌なのに違いない。
彼女は皆と仲良くするために、きっと新見を応援しようとするのだろう。

サユちゃんは、一歩新見の方に近寄ると早口で話す。
話をまとめようとするときによくする態度だ。


「新見さん、ほっぺた気にしないで。私、全然痛くないし」

「へぇ。結構力込めましたが。痛くないですか?」


対する新見は、トゲトゲした空気を隠そうともしない。
お前、キツイんだよ。相手が譲歩している時くらいお前も少し折れろよ。


「うん、大丈夫」


サユちゃんはそれに怖気づいた様子もなく頷くと、俺の方を向いた。


「……サトルくん」

「なに?」


サユちゃんは貼り付けたような笑顔で続ける。しかし、先程までの早口はなりをひそめ、妙にたどたどしい口調になっていた。


「あの返事だけど。……私、今は……」


フラれる。
とっさに察知して、体がこわばる。
逆に夏目は口の端に笑みを浮かべて、身を乗り出してきた。