**

 目覚ましがけたたましく鳴り響く。母さんは階下から二回ほど罵声を飛ばしていた。次に呼ばれるまでに降りて行かないと殺されるかもしれない。

分かっていても動きたくない。そんな日もあるんだよ。


「学校、行きたくねぇなぁ……」


そんな願いは、無遠慮に開かれた扉に潰される。


「お兄ちゃん、早く起きてよ! お母さんが怖い!」


そのままルイは俺の布団の上に飛び乗ると、俺の上で足踏みする。


「し、死ぬ……!」


目は覚めるけど別の意味で起き上がれねぇ。


「分かった。起きるからでてけ」

「早くねー。お母さん、包丁でまな板ドンドンと叩いててスッゲ怖いんだから!」


ルイを追い出し着替えをする。
くしゃくしゃの頭はもうどうにもならないので手櫛で諦めた。

そのうちに階段をのぼってくる音がしたかと思うと、勢いよく部屋の扉が開く。


「サトル! いい加減にしなさいよ」


包丁を手に持った怒りの形相の母親はまるでなまはげ。


「起きてるって」


叱咤されて、ようやく背筋が伸びた。