そっぽを向く彼女を強引に懐に引き寄せる。
ふにゃりと柔らかい感触に頭が真っ白になり、溢れでた感情はそのまま言葉として表に出た。


「好きなんだ。サユちゃんが」

「……え?」


腕の中で彼女が小さく動く。それが拒絶のようにも感じて、俺は思わず彼女を離した。


「か、帰るよ」


そしてすぐ、踵を返して走りだす。
反応を見てる余裕も、返事を聞いてる余裕もない。

頭の中は柔らかい感触でいっぱいで、守りたいとか大事にしたいとかそんな感情とは別のところで、どうしようもない欲望が俺の中に存在するのを、否が応でも感じ取っていた。

抱きしめたい、閉じ込めたい、自分だけの傍に。

だけど落ち着いて考えると、勢いで抱きしめるとか、相手に気がない時は変態行為だから!


「サトルくん!」


遠くに聞こえるサユちゃんの声。

今はもう戻れない。
彼女の望む俺のまま、彼女の傍にいられそうにないから。


「ダメだ。俺って。……男って」


下半身の生き物なんだ。
考えたくないけど、それは事実としてそこにある。


「ああああああ」


駅前の明かりを見ながら、俺は自分の熱が冷めるのを、そこから二十分ほど立ち尽くして待っていた。