駅から十分の距離は走れば五分とかからない。
マンションの前には、きょろきょろと辺りを見回すサユちゃんの姿があった。
もう私服に着替えていて、さらさらの長い髪が風に揺れている。
足音に気付いたのか、彼女の視線が俺を捉える。
いつもなら、ふわりと笑ってくれるその顔は、今日はどこかこわばったままだった。


「サユちゃん」

「サトルくん。……どうしたの?」


切れた息を整えながら、サユちゃんと向かい合うように立つ。
サユちゃんはぎこちないままの顔をどうしたら良いかわからないようで、頬を何度も触りながら、俺の答えを待っていた。

勢いづいて来たものの、こんなにあからさまに戸惑われると告白めいた言葉は喉の奥に引っかかってしまう。
俺はしばらく考えた挙句に、どうにも気になって仕方のなかった事を口にした。


「あの、この間は立ち聞きしちゃってごめん。夏目に、なんて返事したの」

「……信也くんから聞いてないの?」

「うん」


サユちゃんは困った顔で俺を見ると、手をお腹の辺りで組んで指先を落ち着かなさげにこすりあわせた。


「信也くんのことはお友達って思ってるって伝えた」

「じゃあ」


夏目はフラれたのか。だったらなんであんな挑戦的な顔していたんだろう。
サユちゃんは眉を寄せたまま、ポツリと呟く。