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 やがて、担任だという眼鏡がやってきた。

うっわ、銀行員みてー。七三に分けられた真っ黒な髪はツヤツヤに光っている。超真面目先生なんだろうか。その割には紺色のスーツに黄色のネクタイとかいう変な服装趣味もありそうだが。


「入学おめでとう。整列して体育館へ向かうぞ」


小学生みたいな事を言われながら、俺たちは体育館へ向かう。
式っていっても中学の時は結構在校生がざわざわとしてたもんだけど、この高校は違った。中はシーンとして厳粛とした雰囲気が漂っていた。

やべぇ。こんな中歩いていかなきゃなんないのか。
静まられると緊張するじゃないか。

ぎこちなく足を前に出す。在校生たちの視線を感じて、変な唾が溜まってくる。
ああもうさっさと行こうぜ、と前に詰めるように歩いていると、甲高い声がした。


「あ、いた!」

「ちょ、馬鹿、サユ」


在校生の中で一人だけ立ち上がった女の子が、周りの視線を一気に浴びて、真っ赤になって座り込んだ。
隣の女生徒にこづかれつつ、顔を両手で抑えて恥ずかしがっている。

でも一瞬その顔をしっかり見た。
くりっとした瞳、女の子にしては立派過ぎる眉、まっすぐで綺麗な髪。

……サユちゃんだ。
俺のこと、見つけてくれたんだ。

思わずにやけてしまった顔を隠そうと俯くと、後ろからボソリと野太い声がする。