「先輩。ショックだったんじゃないの?」

「なんで?」

「あー、スッゲ鈍感ね、アンタ」

ついに呆れた声が出てきた。


俺と新見が二人で歩いてたからか?
それじゃまるで、サユちゃんがヤキモチ焼いたみたいじゃないか。


「だって、サユちゃんは木下が好きなはずなんだぜ?」

「それ誰情報」

「え? だって。和奏先輩……だったかな。つか、見てれば分かるじゃん、なんとなく」

「はー、ホント馬鹿。大体、さっきから聞いてればサユちゃんがサユちゃんがって」


新見は鋭い目つきで俺を睨むと、眼前に人指し指を突き立てた。


「葉山先輩の気持ちなんて、アンタが考えて分かるわけ無いじゃん。重要なのそこじゃないわよ。アンタ、葉山先輩をどうしたいわけ?」

「どうって?」

「木下先生とくっつけたいの?」

「嫌だよ」


想像しただけで、ゾワゾワする。
木下にもたれるように寄り添うサユちゃん。
おじさんに向けるような安心しきった笑顔を向けるサユちゃん。

やめろよ。やめてくれ。
その眼差しは、木下じゃなくて……。


「ぜってぇ嫌だ」


勢いで立ち上がり、新見を睨みつけるように宣言する。


すると、新見はようやく笑った。
それが泣きそうな笑顔で、俺は一瞬ぎくりとしたのだけれど。


「じゃあ、それを伝えればいいのよ、根性なし!」


新見が足を軽くあげたので、物理的な危機感を感じて立ち上がる。


「わかった。蹴るな! 帰るから。……サンキューな」

「ったく、もうちゃっちゃと告白しちゃいなさいよ」


玄関先まで送ってくれながら、新見は鼻息も荒くそう言うと、俺の背中とドンと叩いた。


「でないと、私が本気になるわよ?」

「え?」

「なんでもないわ。じゃあね」


背中を押されるようにして玄関から出され、戸を閉められる。


「あらあら、もう帰っちゃったの?」

「うん」


新見の母親との会話が小さく聞こえてくる。
最後の新見の言葉に引っかかりながらも、俺は一歩前に進みだした。