「お母さーん、救急箱取ってきて」


彼女は玄関に入るとすぐに大きな声を出す。


「はいはい、どうしたの明菜。怪我したの」

「イヤ、怪我させたの」


返事をしながら奥から出てくるのは母親なのか。パタパタと踊るような足音を立てて年配の女性がやってきた。
俺を見ると、ぱあっと表情を明るくする。


「まぁっ、男の子。なあに、明菜の彼氏?」

「違います。同級生です」


珍しく新見とハモった。


「コンビニ行く途中で見かけたんだけど、つい足をかけてしまったらほら見て。こんな怪我を」

「きゃああああ、なんかえぐれてる!」

「え? マジすか」

「嘘よ。消毒すれば治る程度よ。お母さんは大げさなの」


玄関先でいいですっていう俺を、新見の母親は無理矢理リビングに連れて行った。


白い壁に柔らかい色調の家具。台所からはいい匂いがしている。
なんか……予想外な感じの家だ。
新見の家なら、もっと殺伐としているかと思ったのに。


「ほら、じっとしなさいよ。しみるわよ」

「いてっ」


新見の治療を受ける俺に、にこにこしながらお茶と菓子を持ってくるのは新見母。

新見とは違ってフニャッとしたタイプだな。どっちかといえば珠子に似てる気がする。