「あーダメだ。走るか」


鞄を肩に引っ掛けて、俺は走りだす。

悩んだ時は河原まで一直線するに限る。青春ドラマっぽくて俺は好きだ。
道行く人をかき分けて、隙間を見つけ出しては加速する。
人の多い歩道を疾走するのは他人には迷惑だろうけど、結構気分がいい。


俺はどうしたいんだろう。

サユちゃんが好きだ。
だから彼女が困ることはしたくない。

彼女が困ると思ったから、告白だってまだしないってそう決めていて。

だけど、今彼女は困ってて。俺もなんだかスッキリしなくて。


「……あれ」

「え?」


新見に似た人がいる。
そう思った瞬間に足が何かに引っかかってけつまずいた。

思い切り顔から地面に激突し、コンクリートが肌を擦る音がリアルに聞こえると同時に強烈な痛みを感じる。


「いってぇ」

「あ、ごめん。思わず足出しちゃった」


あっけらかんと上から俺を覗きこむのは、いつもの制服姿ではなく、薄紫のカットソーにジーンズ素材のロングスカートという出で立ちの新見明菜だ。


「新見?」

「中津川くん、公道を走るのはオススメしないわ。迷惑よ」

「通りすがりの同級生に足をかけるのはいいのかよ」

「良くないわね。だから謝ったじゃないの」


本気で反省はしていないだろう。
あっさりというと、俺の腕を引っ張る。


「とにかく早く立ってよ。今すっごく目立ってる」

「誰のせいだよ!」

「アンタでしょ」


あああああ。
何を言っても俺が悪いことになるのはなぜなんだ。