「でも一緒に帰ったんだろ?」
夏目は楽しそうに追い打ちをかけてくる。
なんなんだよ。やたらつっかかってくるな。
こいつの顔を見てると否が応でもあの告白シーンを思い出してしまう。
「それより、お前サユちゃんとは……」
「聞きたい?」
余裕のある顔で笑われて、俺は息を飲み込んだ。
なんだよ、この余裕と落ち着き。
まさかうまくいったっていうのか?
夏目がサユちゃんの彼氏?
止めろよ止めろよ、そんなの悪夢だ。
それにサユちゃんは木下が好きなはずなんだから、間違っても夏目だけはない。
「聞き……」
「おはよう」
……たい、と言い終える前に、勢いよく教室の扉が開いた。
消し途中の黒板の前にいる俺を新見が不審そうにちらりと見る。
「何してんの中津川くん」
「いや、黒板消しを」
「そんなの日直にやらせなさいよ」
クールに言い放ち席につこうとする新見を、夏目が呼び止める。
「お前とサトルがいちゃついてるって書いてあったんだよ」
やめろよー!
せっかく気付かれないように消してんのに。
新見はもう一度俺と黒板を見た後、鼻で笑って夏目を見た。
「あっそう。色々勘ぐるのが好きな輩もいるもんね」
いきり立ちも否定もしないな。動揺が欠片も感じられない。
むしろ夏目の方がビビっている。
新見と一緒に来たらしき和晃と珠子も、被害を受けないためか廊下から入ってこようとしない。
「人のこととやかくいう暇人に付き合ってられないのよね。中津川くん。さっさと消してくれる?」
「は、ハイ」
もはや俺は従うのみ。
やっぱり新見はなんというか、母さんとルイを混ぜ込んだ上に凄みを足したような感じで恐ろしい。
しかし、否定もしなかったな。
先週のあのセリフのこともあって、そこがなんだかひっかかった。