「僕の顔色、もしかして悪いのかな?」


その人が落とした言葉に、ハッと我に帰る。


うっ、やばい。


思いっきり見とれてた。


「いえ、もう大丈夫みたいですよ。あのー、もしかしてサイクリング初めてですか?」


その人はゆっくり立ち上がり、パンパンと身体についた砂を落とした。


「今日で3回目なんです。
いつもより長く走ってたら、急にフラフラして手足が痺れてきちゃって。
それでコントロールを失って、ここに転がったってわけなんだ」


「うーん…。おそらく一時的に低血糖になってしまったんでしょうね。
それってすごく危険なんで、こまめにおにぎりか何かの食べ物を補給してくださいね」


「低血糖? そうなんだ。ちょっと甘く見てたよ。

あ、とりあえずそこのベンチに座らない?」


そう言って彼が指差すのは、私がさっきまで座っていたベンチ。


私はゴクリ息を呑んだ。


次第に速くなる鼓動を悟られないよう出来るだけ平常心を保って、彼に続いて私もベンチに腰を下ろした。


「キミは、サイクリング歴長いの?」


「えっと、一年くらいですかねー」


「そうなんだ。じゃあ先輩だね」


目を細めて、優しく微笑む彼。


ま、眩しいっ。


なんなんだ、この眩しさは。


お、王子様?


そうだ!その言葉がピッタリだ。


すごい……。


ホントに王子様がいた。


しかも、こんなすぐ目の前に。


「助けてもらったから、お礼しないとね」


「そんなのいいですよ。サイクリングする人達は、お互い助け合いますよ。よくあることです」


「でも、キミがいなかったらどうなってたかわからないし、本当にありがとう」


そんな綺麗な顔で言われると、心臓が早鐘を打って大変なんですけど。