「大丈夫ですかっ?」


横に転がっている自転車をとりあえず起こし、その人の前にしゃがみこんだ。


「うー、フラフラするー」


この人、指先が震えてる。


も、もしかして……。


「あの、ハンガーノックかもしれません。ちょっと待っててください」


私は自分の自転車のサドルバッグから、おにぎりを出した。


「これ食べてください」


「え?」


「いいから早く食べてっ」


「あ、はい」


その人はサングラスをかけたまま、私が手渡した一口サイズのおにぎりをゆっくりと口へと運ぶ。


「ふぅ、ありがとう。ごちそうさま」


「どうですか?少し落ち着きました?水分もしっかり摂ってくださいね」


男性の自転車から水筒を取り出して手渡すと、彼は細長い綺麗な手でゴクンとそれを飲んだ。


「はぁ、落ち着いたよ。ありがとう」


そう言ってその男性が、ゆっくりとサングラスを外す。


「え……」


あまりにビックリして、目を大きく見開いた。


少しだけ釣り上がった二重の綺麗な目。


スッと通った鼻筋に、口角の上がったふっくらした唇。


柔らかそうな栗色の前髪が、川から吹く風にふわふわと揺れて。


まるで女の子と見まがう程の綺麗な顔に、私はしばし動きを封じ込められてしまった。