「夏樹君。私と朝日君ね、5年以上付き合ってるの」


その言葉に、ピクンと頬が無意識に上がる。


そんな事、言われなくてもわかってる。


俺が失恋してから、もうそれだけの月日が流れたんだから。


「5年も一緒にいるとね、ちょっとした表情や声の感じで、相手の気持ちが手に取るようにわかってしまうのよ。

朝日君は本当に優しい人よ。

ずっとそうだったし、今でもね。

だけど、この頃違うのよ。

私の事、飽きちゃったのかな?

結婚がイヤになっちゃったのかな?」


「ありさ…」


「夏樹君、どうしよう。

私、朝日君に近いうちに振られそう。

朝日君に振られたら、私どうしたらいいの?」


そう言って涙を流すありさ。


焦った俺はどこかの会社のビルの前に、車を一旦停車させた。


「なぁ、ありさ。ちょっと落ち着けよ。

俺はお前の勘違いだと思うけどな。

朝日はずっとお前一筋だし、大切に思ってるよ。

何か言われたわけでもないのに不安になってどうするんだよ」


「夏樹君…」


「結婚前ってな、誰でもみんな不安になるもんなんだ。

だって、これから一生一緒にいるんだからな。色々迷って当然だろ?

大丈夫だ。一時的なものだから。すぐに過ぎ去るよ」


「…そうなのかな…?」


「未来の旦那を信じてやれよ」


俺がそう言うと、ありさが顔を上げた。


「そう…だね。信じなきゃダメだよね?

わかった。私、朝日君を信じる。

夏樹君、ありがとう」


「あぁ、頑張れよ」


ありさはにっこり笑った。