「こっちが音楽ルームになってるんだ。入って」


「はい」


案内された部屋に入ると、棚にビッシリ埋まるCDと楽譜とスコアが目に飛び込んで来た。


これは確かに売るほどあるかもしれない。


反対側の壁に置かれた机には、パソコン、ミキサー、キーボードが設置してあり、いかにも作曲を専門にした人の部屋だなと思った。


「すごい。本当に音楽ルームですね」


「ふふ。音楽に興味がない人が見たら、引いちゃうような部屋でしょ?」


これが仕事なんだから、全然引きはしないけどな。


「これでも随分処分したんだよー。

最近はダウンロードで買う方が断然多いけど、全部が全部対応してるわけじゃないし。

やっぱりまだCDは必要だね」


「そうですよねー。私もCD買っちゃいます。特に海外のやインディーズは」


「由梨ちゃん、インディーズも買うの?」


「あ、はい。いい曲書いてるのに、売れないバンドって死ぬほどあるんですよ。

私は気に入れば買います」


「バンドの子が聞いたら泣いて喜びそうだね」


「ふふ、そうかな」


朝日さんと話してると、なんだか勝手に会話が弾んでしまう。


「-で、由梨ちゃん。どんなの持って来た?」


「んー、でも朝日さんこれだけCD持ってたら、目新しいのがないかも?」


そう言って、i podを手渡した。


朝日さんがそれをコードで繋いで、再生ボタンを押す。


「おぉー、しぶい。由梨ちゃんこういうのも聴くんだ。20歳の子が聴く曲とは思えないな」


「えー!引きますー?」


「ううん、ほめてる」


「70年代から80年代はやっぱ好きですねー」


「うん、僕も好きだ」


好きだ…か。


また聞いちゃった。


好きって言葉。


やっぱり男の人の言う『好き』には、胸がときめいてしまう。