「水沢、ちょっと」


ミーティング後、私はよく社長に呼び出される。


さほど広くないこの社長室に、私は一週間に何度出入りするだろう。


本棚には難しそうな洋書の数々。


デスクの後ろの壁には、何をモチーフにしているのかわからない現代アートの絵画。


前社長の時の雰囲気は見る影もなくなっていて、ここはすっかり彼の趣味部屋となっている。


少し雑然としているけれど、色遣いにセンスがあるのか、不思議とゴチャゴチャ感はない。


「今日12時に、父の友人の予約が4名入ってる」


女として嫉妬してしまうほどのサラサラの黒髪を揺らしながら、社長は椅子に腰を下ろして長い脚を組んだ。


「久遠オーナーのご友人ですか?」


「あぁ。大切な友人だそうだから、粗相のないように頼む。

オーナーの友人というのは伏せて欲しいとの要望だから、他のスタッフには口外しないように」


彼の澄んだ瞳は、パソコンの画面一点を見つめている。


人にものを頼むのに、社長は私の顔を一切見ない。


「かしこまりました」


いつだってこの人はそう。


私のことなんて全然見ていない。


よく働くホール係としか思っていないんだ。