「僕の妻はね、身体も弱かったし、ずっと僕を陰で支えてくれてた。

僕の成功は彼女のお陰だと思ってるし、そういう妻としての役割も大切だとは思うけど。

だけど、キミの場合はね。

陰で支えると言うよりも、一緒になって戦うって感じがするんだよね」


 うっ。それってやっぱり、私が男っぽいって事なのかな…。


「オーナーは私を買いかぶり過ぎてると思います。

私には、そんなこと出来ません…」


 私の言葉に、オーナーがふぅと息を吐いた。


「一流の人間はね、出来ないって言わないんだ。

もし出来るとしたら?って考えるんだ。

第一線の人間は、出来ないかもしれないという恐怖を克服した人達なんだよ」


 もし出来るとしたら…?


「キミには一流の現場を見てもらいたいし、肌で感じて欲しいと思う。

そして、接客にもっと磨きをかけていってもらいたい。

そうやって培ったノウハウを、今度は後輩達に伝えていって欲しいんだ。

そして、上の人間が気づかない事にキミが気づいて、それを報告してもらいたいんだ。

そうやって、会社を支えて欲しい。

夏樹の会社をね…」


 夏樹さんの会社を…?


「僕が生きている間はまだいい。

だけど僕が死んでしまったら、彼は一人でこの会社を経営していかないといけない。

それが、どれだけ大変な事かわかるよね…?」


 そうだよね…。


 他に身内が居ない夏樹さん。

 
 どれだけ不安だろう。