「僕はね、あと3年で定年を迎えるんだ。

そしたら僕は引退して、経営権を全て夏樹に譲ろうと思ってる」


「そうなんですか?」


「うん。

ちなみに今夏樹に任せてる仕事は、僕の仕事のほんの一部分にしか過ぎないんだ。

本当にごく一部だよ。

それでね、これからの三年間、アイツには修行がてら、東海地域を全部管理させようかと思ってるんだ」


東海地域を全部?


なんだかすごく大変そう。


「今のお店はマネージャーを昇格させて、彼に管理してもらうつもりだよ。
彼は古くからいる社員だしね。きっと大丈夫だろう」


「え…?じゃあ夏樹さんは、今のお店から出て行くんですか?」


あのお店から夏樹さんが居なくなるなんて寂しい。


「いや、あのままあの事務所で仕事してもらうよ。かつて僕がそうしていたように。
地元だしね。あそこは落ち着くんだよ」


そうか。それなら良かった…。


「今、久遠グループは東海、関東を中心に展開していて、今度は関西にもお店を出す。
これからも、ますます大きくなると思うんだ」


そうなんだよね。


厳しい飲食業界の中でも、久遠グループは安定して伸びていると聞いたことがある。


「彼が結婚して落ち着くのも、まぁ悪くはないんだけど、相手が水沢さんなら話は別だ」


「え…?」


それってどういう意味…?