「おやじ。俺、彼女と結婚したいと思ってる。出来ればすぐにでも…」


夏樹さんは真剣な目で言った。


その姿に、胸の奥がキュンと鳴った。


「結婚?」


夏樹さんの言葉が意外だったのか、さすがのオーナーも驚きを隠せないようだ。


しばらく続く沈黙。


く、苦しい…。


もしかして、ダメなのかな?


こんな大きな会社の社長の一人息子だもの。


それに見合うお嬢様とかじゃないと、ダメだったりとか?


そうだったらどうしよう。


ウチはごくごく一般的な家庭だし…。


「ダメなのか?」


 オーナーの沈黙があまりに長いので、夏樹さんが痺れを切らして言った。


「いや、ダメじゃないよ。お前が選んだ人なら、もちろん認めるけれど…」


認めるけれど…?


その先は何だろう…。


「夏樹。お前、少し席を外してくれないか?水沢さんと二人だけで話したい」


え…?


「ちょっ、何話す気だよ?諦めろとか、身を引けとか言ったら、いくらおやじでも承知しねぇぞ!」


な、夏樹さんっ。


「おいおい、そんなこと言うわけないだろう?

すごいな、お前。

こんなお前、初めて見た。

本気なんだな…」


オーナーの言葉に、夏樹さんの顔が耳まで真っ赤になった。


「ご、ごめん…。席、外すよ。カフェコーナーにいるから」


「ん。またすぐ呼ぶよ」


えー!夏樹さん、行っちゃうの?


不安そうにしていたら、夏樹さんが私の頭をぽんぽんと叩いた。


「大丈夫だ。何があっても、絶対離さないから…」


「夏樹さん…」


にっこり笑って、夏樹さんは社長室を出て行ってしまった。