中に入ると、窓を背にして椅子に腰掛けているオーナーの姿が目に入った。


「よく来たね」


茶色を基調としたこの社長室はとても落ち着いた空間で、渋いオーナーに良く似合っているなと思った。


「まぁ、座って」


言われるまま私と夏樹さんは二人掛けのソファに座り、向かいのソファにオーナーが腰掛けた。


「-で、話って何かな?きっと、大阪のお店の件なんだろうけど」


オーナーがにっこり笑った。


「おやじ。その件なんだけど…」


私はゴクッと息を呑んだ。


「水沢を大阪には送れない」


夏樹さんの言葉に、オーナーが「ほぉ」と目を開く。


「それは、どうしてかな?」


オーナーは穏やかに尋ねた。


夏樹さんは一度私を見ると、ゆっくり深呼吸をした。


「おやじ、聞いてくれ」


「ん?」


「俺、水沢と付き合ってる」


夏樹さんの言葉に、オーナーの動きが一瞬止まった。


さ、さすがに驚いちゃったかな。


「そうなんだ。だからか。

どうりで水沢さんを大阪へ異動させるのを嫌がるわけだー。

なるほどな」


オーナーは顎に手を当てて、うんうんと頷いた。


「自分の都合で言ってるのはわかってる。だけど、それだけは従えない。

もしどうしてもって言うなら、会社を辞めさせるから」


夏樹さん…。