ベニスの街で、ひとりゴンドラに乗る私。


コンドラ漕ぎの男性が、私に優しくほほえみかける。


私の目の前に座る白髪のおじいさんが、アコーディオンの素敵な演奏を聴かせてくれる。


その演奏に耳を傾けながら、私は川から流れてくる心地よい風に目を閉じた。


しかし、急にコンドラが揺れる。


何?地震でも来たの?


穏やかな川が急にものすごい波しぶきをあげる。


ゴ、ゴンドラがひっくり返るーーー!


キャーーーーーーーー!!!


身体が回転した直後、ドタンッとものすごい音が鼓膜に響いた。


「痛っ」


頭打った。


本気で痛い。


あれ?濡れてない。


なんだ、夢か…。


途中まではいい感じだったのに。


ベッドから落ちたのか…って。


「えぇっ?」


ここどこ?


ふと振り返ると、ソファに横になって眠っている社長の姿。


「げっ」


まわりと見渡すと、窓から差し込むほんのり明るい日差し。


や、やばい。


朝になっちゃった…。


変な形の数字の壁時計に目をやる。


「ご、5時?」


マジか!


まぁでも今から家に帰れば、お風呂にも入れるし、着替えも出来るか…。


スッと立ち上がって、社長を見つめる。


すっかり熟睡してるな。


無駄に綺麗な顔。


落書きしてやりたい。


この長い脚で私のことを蹴飛ばして落としたんだな。


むかつく。


全くとんだ迷惑だったわ。


私は社長が脱いだスーツをそっと彼にかけて、静かに社長室を後にした。