「残念だけど、それ以上は聞こえなかったのよー。

だけど、確実にいるわ。このお店の中に」


そうなんだ…。


久遠オーナーがこのお店に来たのって、そういう理由だったんだ。


そうだよね。すごくお忙しい方だもの。


何の理由もなく来られるはずがないよね。


でも、ちょっと待って。


久遠オーナーが帰られてから、夏樹さんの様子がおかしくなった。


引き抜かれるもう1名って。


もしかして私なんじゃ……?





その日の夜、私は夏樹さんが帰って来るのをリビングで待った。


ドキドキするけど、でも確かめなくちゃ。


夏樹さんの元気のない姿なんて、もうこれ以上見たくないもの。


その時、ガチャンと玄関のドアが開いた。


いつものように、玄関まで走って行く。


「おかえりなさい」


笑顔で出迎えると、疲れた顔でも優しい目をしてくれる。


「先に風呂に入って来る」


夏樹さんは、帰ると大抵すぐにお風呂に行ってしまう。


ふぅとため息をついて、私はまたリビングに戻った。


この頃夏樹さん、少し頬がこけた気がする。


あんまり食べれてないのかな…。


しばらくすると、濡れた髪を揺らして、夏樹さんがお風呂から出て来た。


冷蔵庫からお水を取ると、私の隣にゆっくりと腰掛けた。