それからの数日、夏樹さんはずっと元気がなかった。


オーナーと何かあったのか、その理由を聞きたいけれど、なんだか聞くに聞けなくて。


毎晩激しく求めては、朝まで私を抱きしめて眠る。


その繰り返しだった。


何かを抱えているはずなのに、何も言ってくれないことがすごくもどかしかった。


そんなある日の休憩時間のこと。


「水沢、柚木。ちょっと耳貸して」


谷口先輩が、小声で私と沙希に話しかけて来た。


「あたしね、さっき社長室の前で聞いちゃったのよ。マネージャーと社長の会話を」


「えっ?何を聞いたんですか?」


沙希は興味深々のようだ。


「この前、オーナーがここへ来たでしょう?あれってね。どうやら大阪に新しく出すお店のスタッフを、このお店から引き抜くための品定めだったらしいのよ」


引き抜く?このお店から…?


「えぇー!-で、誰が引き抜かれることになったんですかぁ?」


「それがね、どうも2名いるらしくて。意外だったのが、1人はなんと林君なのよ」


林さんが引き抜かれる?


うそ。

 
なんだか、ちょっぴり寂しいな…。


「あと1人は誰なんですかぁ?」