視界が激しく揺らいでいる。


最上階の静か過ぎるこの部屋に、さまざまな音が混ざり合い、溶け合う。


落ちていきそうな意識を、夏樹さんの髪をぎゅっと握って必死に繋ぎ止める。


「…り、由梨…っ」


吐息混じりに発せられる余裕のない声。


さっきから夏樹さんは、何度も私の名前を呼ぶ。


私は夏樹さんの全てを受け入れるのに、必死だった。


狂おしいほどの求愛に、私の身体も心も小さな悲鳴を上げた。







「ごめんな…。怖かった…?」


夏樹さんが頭を撫でてくれる。


その手はさっきまでの激しさと違って、とても優しかった。


「何か、あったんですか…?」


夏樹さんの顔を覗き込むけれど、目を閉じているから、その心は読み取れない。


「なんでも…ない」

 
掠れた声でそう呟くだけだった。


オーナーは駅前のホテルをとっておられたそうで、夏樹さんの家には来なかった。


ちょっと拍子抜けした私だったけれど、帰って来てから夏樹さんの様子がずっとおかしい。


怖いなんて全然思わないけど、ただ…。


時折見せる泣きそうな表情に、胸がキュンとせつなくなった。