「俺がお前を嫌いになるわけないだろう?それを言うなら俺だよ。
俺こそお前に嫌われたかと思った…」


「そんな。嫌いになんて…」


「いつも素直で従順な由梨が、あんなに嫌がったんだ。よっぽど怖かったんだろう?ごめんな…」


「夏樹さん…」


「ゆっくりでいいよ…由梨」


そう言って夏樹さんが、優しく髪を撫でてくれる。

 
その手がすごくあたたかくて、また涙が流れた。


「由梨、疲れただろ?もう寝ようか」


そう言うと、夏樹さんはソファから起き上がった。


私も立ち上がると、すぐに夏樹さんが私の手を取った。


手を繋いだままゆっくり歩き出すと、シンとしたリビングに二人の足音が響き渡る。


ひんやりと冷たい廊下に出ると、夏樹さんが自分の部屋の前で止まって私を振り返った。


「由梨どうする?自分の部屋で寝るか?」


「え…?」


どういう…意味?


昨日は毎晩一緒に寝ようって言ってくれたのに…。


もしかして、私がいたら迷惑なの?


「由梨…?」


いけない。また涙が…。


「どうしたんだよ。泣くなよ…」


夏樹さんがそっと抱きしめてくれる。


あぁ、やっぱりこの腕と胸に私はホッとしてしまう。


「夏樹さん…」


「ん?」


「一緒に、寝ちゃ駄目ですか?」


もっと、一緒にいたい。


もっと、抱きしめて欲しい。


一線を越えるのは怖いくせに、夏樹さんに抱きしめられたいって思う私は変なのかな…?


「……バカ。いいに決まってる」


そう言うと夏樹さんは私の肩を抱いて、自分の部屋に入れてくれた。