「それにしても、帰るのが嫌になるなんて、本当に彼の事が好きなんでしょうか?
実はそんなに好きじゃないとか」


林の言葉が、グサッと胸に突き刺さる。


そうなのかな…。


由梨は俺の事、そんなに好きじゃないのかな…。


「それならまだ、僕にもチャンスがありますかね?」


なんだ?その嬉しそうな顔。


誰が渡すかっ!


なんだかんだと林と話しながら、あと少しでお店に着きそうになった時だった。


「…あれ?」


俺の背中で由梨の声がした。


やべぇ。由梨が起きた…。


「あ、水沢。起きた?」


「林さん…?」


「水沢、飲み過ぎだよ~。今から社長が車で送ってくれるから、家に帰ってゆっくり寝ろよ」


「え…?」


うっ、気づいたか?


「いやっ、私帰らない」


急に暴れだす由梨。


「おいっ、暴れるなよ。危ないって」


そう言ってはみたけど、結局バランスが崩れて由梨は地面に落ちてしまった。


「水沢、大丈夫?」


そう言って林が、慌てて由梨に駆け寄った。


由梨は涙にいっぱい涙を浮かべながら、俺の顔を見上げている。


なん、だよ…。


そんな悲しそうな顔しなくても…。


でも、こんな顔をさせているのは他でもない俺なんだ。


男に生まれたかったって、前に由梨はそう言っていた。


コイツは自分の女の部分を否定して生きて来たんだ。


俺に抱かれるということは、今まで否定して来た部分をさらけ出すということだ。


それがどれだけ怖い事か…。


俺はそれをわかってあげられなかったんだ。


「ごめん。昼間の事は謝る…」

 
俺は由梨の前にしゃがみ込んだ。


「もうあんなこと言わない。無理強いなんか絶対しないよ。約束する…。だから、帰ろう」


そう言って手を差し出すと、由梨の目から涙がぽろぽろと溢れ出した。