「…り。由梨っ」


「ん…」


誰?


誰が呼んでいるの?


「仕事に遅れるぞ。早く起きろって」


ん?仕事?


「えぇっ?」


ガバッと跳ね起きると、私の目の前に夏樹さんの超ドアップが…。


「わぁぁっ」


あまりにビックリしてひっくり返ってしまい、夏樹さんに呆れた顔をされてしまった。


「早く着替えろ。

お前、お店に自転車置きっぱなしだろ?

乗せて行くから、すぐに準備して」


夏樹さんはもうスーツを着ていて、すぐにでも出発出来そうな雰囲気だ。


私は慌てて洗面台へと向かった。


10分で支度を終えると、夏樹さんはすでに玄関で靴を履いていた。


「ごめんなさい。お待たせしました」


私も慌ててスニーカーを履く。


「女の支度とは思えないくらいのスピードだな」


うっ。


だって、早くしろって言うから…。


「行こう」


「あ、はい…」


夏樹さんはすっかり社長モードになっている。


昨日、あんなさみしそうな顔をしていたのに、まるで別人みたい。


なんかちょっぴりさみしいかも…。


一階に到着し、私達はエレベーターを降りた。


「おはようございます。おや…?」


秋山さんとバッチリ目が合った。


「水沢様、いつ戻られたんですか?」


秋山さんがビックリした顔をしている。


「あの、えと…、私…」


昨日お別れを言ったばかりなのに、なんて説明しよう。


一人で困っていたら。


「秋山さん」


夏樹さんの低い声が、ロビーに響き渡った。