私の隣で、黙々とワインを飲む社長。


よくそんなに飲めるな。


「おい。お前、全然飲んでないじゃないか」


「何もつまみがないんで、飲みづらいんです」


「なんだ、そういうことか。早く言えよ」


社長は立ち上がり、デスクの近くにある小さな冷蔵庫を開けた。


何かを取り出し、またソファに座る社長。


「これ食おう」


「あっ、イタリアチーズの王様ですね」


「お前、詳しいな。新人のくせに」


「新人じゃないですよー。もう2年目です」


「は?」


「は?って…。

社長は従業員に関心なさ過ぎですよ。

私は短大時代からずっとここでアルバイトしてるんですー」


「そうなのか。

どうりで、若いのによく仕事できるわけだー」


ったくこの人は、私のことをなんだと思ってるんだろ。


「まぁいいや。食おう」


社長はチーズのビニールを剥がし、どこから持って来たのかナイフでサクッとチーズを切った。


「ん」


アゴを軽く突き上げて、手を出せと合図する社長。


ナイフから、チーズがポトッと落とされる。


私はそれを両手で受け取って、ゆっくりかじってみた。


「わー、食べやすくておいしい」


「だろ?まぁ沢山食え。ワインも飲めよ」


「……はい」


なぜそんなに飲ませるんだろう。


とことん付き合えってこと?


私、いつ帰らせてもらえるんだろう…。